入学式会場に到着した涼太は、
そこで背が小さく丸眼鏡が特徴的な青年と出会う。
あまりの特徴的な行動の多さから、
涼太の入学式の想い出は彼一色になってしまう。
彼の名は…「金井 京一郎」
9.トークン評価はこの世の全て
入学式は、結局、退屈なまま
時間だけが過ぎて終わっていった。
その時間、実に2時間。
横の金井君の瞼はまだ重たそうだった。
あんまり、こいつとは関わらないほうがいいな…
そう身体の内側が叫んでいたので、そっと会場を後にする。
昼食を和也とともにした後、昼からの学科説明会に挑んだ。
横には金井君が座っていた。
「初めまして、この学科2人だけらしいね。僕は金井京一郎。
よろしく」
スッと手を差し伸べてきた。
「いや、さっき会場でもあったよね…?」
ものすごく、こいつの事を不審な目で睨んだ。
「あれ、そうだったけ?」
彼の眼はまっすぐ俺を見ている。
さっきの出来事をびた一文本当に覚えていないようだ。
彼はなかなかの曲者のようだった。
だが本当に、彼が曲者だと知ったのは説明会の最中のことだった。
登壇で話していた教授が、
「さて、毎年入学式恒例だが、個人トークンの価値が高い優秀評価者を
3名紹介する。まずは、第3位。バスケットボールのトークンを有する
大井 和也君だ。前へ」
見覚えのある長身がすっと前へと向かう。
…和也じゃねーか。
やっぱりすげーよ、あいつは。
学年全員で10000人は優にいるんだぞ。
和也はさわやかスマイルで他愛もないことをさらっとしゃべった。
あいつ、手抜いてやがるな。
長い付き合いの俺には、すぐ分かった。
だが挨拶が終わると、
「キャー」
という黄色い歓声が起こった。
…いや、なんか反応ちがくね?
違和感しか感じなかった。
2位は、メジャー注目の野球選手。
知らない奴だったが、もうすぐ、渡米するんだろう。
…こいつなんで、大学進学したんだ?
そんなことをふわっと考えていると
「キャー」
先ほどより更に強い黄色い歓声が起きた。
…いや、ここコンサート会場じゃねーし。
そんなこんなで2位までが終わり、いよいよ残すは一位のみになる。
会場が異様な空気に包まれる。
教授が口を開ける。
「そして、今学年の最優秀個人トークン保有者を発表する。
…金井京一郎君だ。おめでとう」
ん?
俺は耳を疑った。
すると、
「はい」
横の髪の毛ぼさぼさの彼が、とぼとぼと前へ歩いていった。
あいつ、何者だ??
俺は彼の存在が、よりこわくなった。
「金井君は、齢18歳にして独立時計師に認定されております。
本当にすごいことです。
また、作品を5品すでに公開されており、彼の名は世界にとどろいています。
はい、拍手」
割れんばかりの拍手が会場内を包み来む。
小さく手をたたきながら、
教授のくせになんで金井に敬語なんだよ…
そこが気になって仕方なかった。
彼は、ぼさぼさの髪をクシャクシャと掻きながら
「えー金井京一郎です。よろしくどうぞ」
一言ボソッと呟いた。
明らかにまだ眠たいのだろう…
饒舌は眠気の前に息をひそめた。
ぶっきらぼうの一言、一瞬空気は静寂に包まれたが、
「キャー」
今まで一番、黄色い歓声が起こった。
…いや、あいつ髪の毛ぼさぼさだぞ?
俺はこの時から身に染みて感じだす。
外見や容姿じゃない。
評価のトークン価値がこの世の全てなのだと。
次回もお楽しみに!→10話へ