大学の入学式に和也とともに向かう涼太。
行きの電車賃のトークン格差に夢をかなえる気持ちを
一層強くする涼太。
しかし、その情熱は空回り気味だった。
「OO大学 入学式」
会場に入り、今日の大学の入学式のパンフレットを手にとる。
「えーと、俺が技能学部で、和也がスポーツ学部か」
「そうだな、なんか場所違うみたいだから終わったららまた会おうか」
「そだな」
和也とはここで別れた。
学部は各自のトークン設定をした時点で、自動的に絞られていく。
昔でいう文系、理系ってやつだな。
今はそんな分け方しないけど。
俺は、時計技師になるための勉強をするために、大学に来た。
早く勉強がしたい。
嘘に聞こえるかもしれないが、心の底からの本音である。
なぜなら…
早く技能を習得しないと、個人トークンの価値が一向に上がらないから。
それだけである。
遊ぶには金がいる。
金はトークンと同義だ。
そのトークンは俺の評価にかかってくる。
…となると遊びたければ、勉強を嫌でもするしかない。
単純な理屈である。
以前、父さんの大学時代について聞いたことがある、
「いやー父さんの頃は遊び惚けてたよ。大学は人生の夏休みだった」
「それどういう意味だよ?」
思わず聞き返した。
「いや、そのままの意味だけど?」
「勉強しなきゃ、トークンの価値が落ちるじゃんか」
「父さんが学生の頃は、個人トークンなんてもんはなかったからな」
「じゃあ、どうやって遊ぶ金を手に入れてたんだよ」
「アルバイトか親の金かな」
「ずりー」
本当に昔って最高だったんだなと
父さんのほろ酔いしたり顔からすぐ想像出来た。
さて、俺の学部はここか。
式にまだ時間があったが、早めに自分の学部の場所のイスに座った。
「君は時計技師になりたいのかい?」
隣に座っていた丸渕眼鏡の背の小さそうな男子が、突然話しかけてきた。
「そうだけど…」
「そうなのか、金井京一郎。よろしく」
「はあ、どうも」
とりあえず、差し伸べられた手を握り返す。
「ところで君さ、腕時計ってつくったことある?あのねじの細かいところを
作るのが、なかなか尺でさ…あっ、でもそこがいいんだよね。あの苦労の後に
小さな部品を組み合わせて時計に息を吹き込んでいく感覚がさ…、
あっそういえば
最近時計用の工作機械を買ったんだけどさ…」
長いし、話が分かりづれえ。
途中で話題変わりまくってるし。
それに、髪の毛がベッタベタでぼさぼさの黒髪。
どこで、買ったんだ?
というくらいそれはそれは丸い縁の眼鏡。
いろいろ聞きたいことはあったが、その饒舌ぶりに
話の隙間を与えてくれない。
なんだこいつは…
とりあえず、適当に相槌でかわしながら様子を見ていると、入学式が始まった。
色々な演目があったが、予想通り入学式は退屈でつまらなかった。
先ほど、冗長に自己紹介してくれた金井君は頭をコクン、コクンとさせていた。
…こいつ寝てやがる…!
そのインパクトの強さから
入学式の印象は彼の存在が全てになってしまった。
そんな変人・奇人、金井京一郎とのかかわりはこうして始まった。
次回もお楽しみに!→9話へ!